2012年6月21日木曜日

人間のDNAは「火星」からやって来たのか?


宇宙空間広しと言えども、「火星」ほどに人間味のある星はないだろう。

「火星人」を夢想した人類は、さまざまなストーリーをこの星に見い出してきたのであるから。



今から130年以上も前、1877年に火星が地球に大接近した時、当時の望遠鏡でもその表面の模様までがよく見えた。

※地球の公転スピード(365日)は火星のそれ(687日)の2倍近くあるため、およそ2年に一回、地球は火星を追い越して行く。その追い越す時こそ、火星が地球に大接近する時であり、その時には火星が7倍にも巨大に見える(最遠時比較)。



その時に見えた火星の縞模様をスキアパレッリは「溝(Canali:イタリア語)」と記した。

ところが、その自然造形を意味したであろう「溝(Canali)」は、英語の「運河(Canal)」と酷似していたため、早トチリな人々はそれが火星人の造った「人工の運河」であると囃し立てた。

しかも、その運河はとてつもなく巨大である。万里の長城どころの比ではない。星全体を縦横無尽に駆け巡っているのである。

「火星人はなんと進んだ文明を持つことよ…」





イギリスのSF小説家「H.G.ウェルズ」は、とてつもなく頭の良いであろう火星人に
戦慄した。彼の小説では最強の火星人たちが地球に攻め寄せる。





※頭の良い火星人の頭は異様に巨大で、地球より重力の薄い火星に住む彼らの四肢はタコのように軟弱であった(火星の重力は地球の40%)。

世に一般化した「タコ型火星人」はウェルズの空想の産物であったにも関わらず、その想像力に火をつけられた人類は、現在もなお、火星に探査機まで送ってその痕跡を探し続けている。

※火星へ向かった探査機には失敗が多く(約2/3)、それは火星に探査機を食べて暮らす悪霊がいるからだと言う人もいる。これもまた人間味ある発想ではないか。



さすがにタコ型の火星人がいると今だに思っている人は少ないかもしれないが、何かしらかの「生命の痕跡(もしくは生命そのもの)」が火星にあると信じる科学者たちは数多い。

そうした人々を元気づけた贈り物は、1984年のクリスマスが終わった頃に南極大陸で発見された。

その贈り物とは「隕石(アラン・ヒルズ84001)」のことである。

その隕石の内部からは「生命体の化石」らしきものが確認されたのであるから、その支持者たちを大喜びさせたのは当然のことであろう。




現在は「赤い砂漠の極寒の星」である火星も、40億年前は地球のように「水」の豊かな美しい星だったというのである。

火星探査機「MRO(マーズ・リコネッサンス・オービター)」は、火星表面に輝く「氷」の映像を捕えた(2006)。



ある説によれば、火星の地表50cm以下は巨大な氷で覆われているそうで、少し掘ればすぐに氷が出てくるのだそうだ。MROが捕えた氷の姿は、隕石の衝突で火星の地表が剥がれた部分から露出したものと考えらている。

※火星探査機「オポチュニティー」は水中でしか形成されない「ヘマタイト(赤鉄鉱)」を火星で発見している。



水の存在は生命の存在に結びつく重要な手掛かりである。

それは、地球上の生命の起源が「水」に求められるからである。



ところで、「生命とは何か?」

呼吸するものか? 動くものか? 変化するものか?




20世紀の生命科学の到達した一つの答えを借りれば、それは「自己複製を行うシステム」となる。

「自己複製」というのは、DNAを自ら複製(コピー)して増えていくことである。

このシステムは高等複雑な人間にも必要不可欠なシステムであり、それはチリに等しい単細胞生物とて持つものである。



DNAを複製(コピー)するためにはRNAという長い鎖が活躍するが、その長い鎖は「ヌクレオチド」という一つ一つの部品から成っている。

さらに分ければ、ヌクレオチドは「塩基・リン酸・糖」という細かい部品から成る。

「生命」という漠然とした概念は、これらのパーツが適切に組み合わされることによって、「誕生」という日の目を見ることができるのだ。




水があったという「40億年前の火星」は、地球以上にその条件が整っていたと「ジョゼフ・カーシュビンク教授(カリフォルニア工科大学)は主張する。

生命の誕生の適地は「水中」とされながらも、その過程においては「陸地」が必要だとカーシュビンク教授は考える。それゆえ、陸地のなかった地球よりも、陸地のあった火星の方が生命誕生の確率は高かったと言うのである。

※40億年前の地球には「海」しかなくて「陸地」は存在しなかった。それに対して、40億年前の火星には「海」も「陸地」も存在した。




なぜ、生命(DNA)誕生に陸地が必要だったのか?

それは、DNAの部品となるヌクレオチドの形成過程にそのヒントが潜んでいる。

ヌクレオチドを作る「塩基・リン酸・糖」は始終水に浸された状態ではお互いに結び付きにくい。なぜなら、水分が「抜ける」ことで初めて塩基とリン酸は糖と結び付くことができるようになるからである。



つまり、DNAの元となるヌクレオチドという部品は、浸水と乾燥が繰り返される「海のなぎさ」のような場所で形成されやすく、それは陸地があるほうが都合が良いのである。

そして、その適地は40億年前であれば地球よりも火星であった、とカーシュビンク教授は言うのである。

彼の自論はさらに発展し、「火星で誕生した生命が隕石に乗って地球にやって来た」とまでなる。



小説家ウェルズのタコ型火星人は、宇宙船に乗って地球にやって来たわけだが、カーシュビンク教授の考える生命はDNAであり、それが隕石の内部に閉じ込められた形で地球にやって来たことになる。

火星から地球に隕石が届くことは珍しいことではない。先述した南極大陸の隕石(AH84001)もそうだ。



しかし、火星から地球まで隕石が届くのには、いったいどれほどの時間がかかるのか?

その隕石が秒速3.3kmだと仮定すると、そのうちの1%が100万年かかり、0.1%が10万年かかる(グラッドマン教授の計算)。

なんと途方もない時間だろう。隕石の中に生命が閉じ込められていたとしても、死に絶えてしまうではないか。



グラッドマン教授は続ける。「実際には、10年間で10数個の隕石が地球に届く可能性がある」と。

小惑星の衝突などで火星から放たれる隕石は一度に数億個を超える。そのうちの10数個というのは恐ろしく低い確率ではあるが、生命誕生という奇跡は常識を超える低い確率から生まれるのが常である。

それは、数億個の精子のうちでたった一個の精子だけが生命を生むことを考えれば理解できよう。そんな奇跡が年がら年中起こっているのである。



しかし、たとえ短期間で地球にたどり着いたとしても、地球の大気圏突入の際のとんでもない高温に生命は耐えられないのではないか?

カーシュビンク教授が火星からの隕石の「磁場」を調べた結果、隕石の表面数ミリは確かにとんでもない高温になっていたが、5mmも内側になるとたった40℃以下だったそうである。

※岩石の磁気は、高温にさらされることにより皆同じ方向を向く。そのため、もしその磁気がバラバラの方向を向いているのであれば、それは高温に晒されていない証拠でもある。その論に従えば、火星からの隕石AH840001の内部は磁気がバラバラであり、高温に晒されてた形跡は発見できなかった。



火星が生命誕生の適地と考えたカーシュビンク教授は、火星に多く見られる粘土「モンモリロナイト」も生命誕生を助けたと考えている。

乾燥と浸水が繰り返されて形成されたヌクレオチドも、それら同士が並んで結合しなければ一本の鎖とならない。そのバラバラの鎖をつなぐ役割をするのが、その粘土(モンモリロナイト)である。



試しにバラバラのヌクレオチドを入れた試験官の中にモンモリロナイトを入れて3日も待てば、立派な鎖ができている(多い時は50個以上つながるとのこと)。

それはモンモリロナイトが電気を帯びているため、その層に沿ってヌクレオチドがキチンと整列するからだ。ヌクレオチドが繋がればしめたもの。もう生命(DNA)誕生は目前だ。




地球人が火星に特別の思い入れを抱くのは、故(ゆえ)なきことではないのかもしれない。

ひょっとしたら、火星を故郷(ふるさと)とする生命が地球に存在するのだとしたら尚のことであろう。



ところで、今の火星に目をやると、そこに生命の躍動は感じられない。火星人を夢想した人類も、その事実が明らかになるにつれて失望を隠せなかった。

40億年前には「水」があったのかもしれないが、現在の火星の大気に水分はない。その希薄な大気は95%が二酸化炭素であり、それが極寒の冬にはドライアイスと化す。



その目を地球に戻すと、その豊かさは際立つばかり。

しかし、もし火星の姿が将来の地球の姿だとしたら…。今の巨大な海はどこへ消えるのか?

火星の海はどこへ消えたのか?



「火星から生命が来た」と信じるカーシュビンク教授には、もう一つ面白い論がある。

それは「スノーボール・アース」と呼ばれる理論で、かつての地球は雪玉(スノーボール)のように真っ白に氷結していた時代があったというものである(およそ6~7億年前)。

※カーシュビンク教授がこの説を思いついたのは、赤道付近に残る氷河の痕跡を自らの目で確認したときだったという。




1992年に発表されたこの大胆な仮説は、当時の学界に「ありえない」と一蹴された。

猛烈に反対された理由は、こうだ。地球が完全に氷結してしまえば真っ白になり、その白さが反射鏡のように太陽熱を反射してしまう。そうなると、地球の気温は二度と上がることがなく、その氷は融けることができなくなってしまう。

ご存知の通り、今の地球はほんの一部分しか氷に覆われていない。それゆえスノーボールアース仮説は誤りである、というのである。



ところが現在、カーシュビンク教授の荒唐無稽と思われたスノーボールアース仮説は、学界ではすっかり「主流」となっている。

反対する学者連中を納得させたカーシュビンク教授の論はこうだ。



大気中の二酸化炭素は、時を経るにつれて大陸や海へと「固定」されていく。

固定されていけば当然大気中の二酸化炭素は減少し、それが「寒冷化」を導く。海は凍り、大地も凍る。スノーボールの完成だ。

反対派が言う通り、真っ白の地球は太陽光を反射してますます寒冷化する。

Source: mcgill.ca via Hideyuki on Pinterest


しかし、二酸化炭素の循環ばかりは止むことがない。

凍り切らない深海や火山周辺では生命活動が継続し、二酸化炭素が放出され続ける。少しずつながらも大気中の二酸化炭素は増え続けるのだ。

しかも、表面が氷結した地球は大気中の二酸化炭素を固定することができない。それゆえ、大気中の二酸化炭素濃度は高まる一方である。

その結果起こるのは…、おなじみの「温暖化」である。反対派が見落としていた点は、この二酸化炭素による温暖化であった。



大気中の二酸化炭素が一定比率に達すると、温暖化は加速する。

スノーボールは氷解し、再び大地や海が現れると、二酸化炭素の固定が始まり、地球の気候は落ち着きを取り戻す。



発表当時は散々にバカにされたカーシュビンク教授であったが、今の評価は180°変わってしまっている。

「火星から生命がやって来た」という彼の説は、スノーボール・アース以上にブッ飛んだものかもしれない。




それでも教授の自信が揺らぐことはない。

「私の知る限り、私の説で間違いが証明されたものは、一つもありません。」



はたして、我々こそが火星人であったのか?

宇宙にあふれる謎は、人類の想像力を刺激してやまないようである。




火星の生命と大地46億年



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出典:コズミックフロント 
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