2012年6月7日木曜日

YouTubeの描く「思いもよらぬ」未来


「ヨセミテの山熊」と呼ばれる無骨そうな大男は、大自然の大空にかかった壮大な二重の虹に、いたく感銘を受けたようである。

彼はその感動を記録しておきたいと思ったのであろうか、そして、その感動を誰かと分かち合いたいと思ったのであろうか。

その壮麗な虹の動画は、YouTubeにアップされた。




しかし、手振れの激しいその動画は、「Oh, my God. Oh, my God! Wooo! Ohhhhh, wowww!」と意味不明の感嘆が続くだけ。

当然、その動画へのアクセスは「梨のつぶて」であり、アクセス数を示すグラフは地を這うようなゼロ行進が続いていた。もっとも、ヨセミテの山男はそんなアクセス数には無関心であっただろうが…。

ところが、その後、思いもよらぬ展開へ…。





地を這っていたはずの折れ線グラフは、突如、目覚めた龍のごとく、天高く飛翔したのである。

その結果、その年のアクセス数は2,300万回にも及んだ。

いったい、何が起きたのか?




そのブレイクには明らかな発火点があった。

それは、一言のツイート(つぶやき)であった。



「友達のトッドが『世界一おかしいビデオ』だって言ってたよ。確かに彼の言う通りだ」

ジミー・キメルがTwitterでそうつぶやいた途端に、ヨセミテの山熊の「虹の感動」は、世界中に伝播したのである。



山男の虹と同様、レベッカ・ブラックの「金曜日」という動画にも、同じ奇跡が訪れた。

あるブログで取り上げられ、それを茶化したツイートが世を駆け巡ったのだ。その結果、動画「金曜日」のアクセスは年に2億回を突破した。

そして、金曜日になるたびに、そのアクセスはユニコーンの角のごとく突出した。



ヒーローが現れれば、それを囃し立てる面々も現れる。

動画「金曜日」のパロディは一万本以上も投稿され、すぐに「各曜日」のパロディが出そろった。

それは、2匹目のドジョウどころか、何万匹というドジョウを狙ってのことであった。




パロディ動画というならば、「ニャン・キャット(Nyan Cat)」抜きには語れない。

この動画は、虹をたなびかせて飛ぶネコが、繰り返し流れるループ音楽とともに、延々と同じ動きを繰り返すだけのものである。




この動画を見ただけでは、何がこの動画を大ヒットさせたのかは理解に苦しむ。

それでも、このニャン・キャットは年に5,000万回近く再生されている。さらに、この動画には、3時間も延々と繰り返されるバージョンもあり、驚くべきことにこちらも400万回以上も見られている(オリジナルの3分でも長すぎると感じるというのに!)。



ニャン・キャット単体での力は限定的であったのだろうが、それに付随して生み出された無数のパロディ動画の可能性は無限大であった。

「ニャン・キャットを見ている猫」の動画がヒットすれば、「ニャン・キャットを見ている猫を見ている猫」の動画までがヒットする。




色を変えたり、サングラスをかけたりというバージョンから、世界各国の衣装に扮した各国版のニャン・キャットも世界中から生まれた。




山男の虹、金曜日、ニャン・キャット…。

前時代であれば、これらの動画が日の目をみることはなかったであろう。

山男の虹はビデオに収められただけで終わったかもしれないし、ニャン・キャットはパソコンのフォルダから抜け出せずに、延々と同じ動きを繰り返すのみだったかもしれない。



しかし、今は疑いようもないWeb時代。わずかな取っ掛かりから、世界中に広まる可能性が秘められている。

山男の感動がたった一人の心の動かせば、それはドミノのような展開を見せる。

誰かが面白がって「金曜日」や「ニャン・キャット」を真似すれば、それはオリジナル動画の価値までをも高めていく。



かつては大きなメディアの力が圧倒的に強く、著作権に関する取り締まりは、ことのほか厳しかった。

それに対して、ソーシャル・メディアによる拡散は、真逆の道を進んでいるかのようである。著作権フリーの小さな個人の情報が、他の小さな個人の関心を連鎖的に誘発し、外へ外へと勝手に歩き出していくのだから。



「誰がこんなことを予想できたでしょう?

『山男の虹』や『ニャン・キャット』のようなものを。

こんなものを生み出すために、どんなシナリオが描けたでしょうか?」

YouTubeトレンドマージャーのケビン・アロッカ氏は語る。



「これらのことは、一つの大きな疑問につながります。

これには、どんな意味があるんだろう?」



本当の意味での「その意味」は、誰も分かってないのかもしれない。

もっとも、前を向いて進んでいる人々は、そんな意味を気にもしていないのかもしれないが…。



我々はバカな魚ではない。明らかに仕掛けられたエサに魅力は感じないのである。

「思いもよらぬ」からこそ、未来に希望を感じることができるのだ。





出典:TED Talks
ケヴィン・アロッカ 「バイラルビデオが生まれるメカニズム」

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